原子の全電子計算を実行するためのキーワードを説明します。 擬ポテンシャルと擬原子軌道の作成は全電子計算に基づいているため、ここで説明するキーワードは他の計算を行う場合でも重要です。 全電子計算に関係するキーワードを前章から抜粋し、以下に列挙します。
交換相関エネルギーに使用する近似法 (LDAまたはGGA)を本キーワードによって指定します。 ここで「LDA」はPerdewとZunger [1]による表式であり、「GGA」は、Perdew、Burke、Ernzerhof [3]によって提唱された表式です。 またVosko、Wilk、NasairによるLDAの表式は「LDA-VWN」 [2]によって利用可能です。
本キーワードにより、全電子数を指定します。中性原子のみならず、正電荷または負電荷をもつ原子の電子数を指定することも可能です。 負電荷を持つ原子 (原子番号より多くの電子が持つ)では波動関数が非局在化し、SCF計算の収束が難しくなる場合があります。
動径Kohn-Sham方程式は、原点付近の動径点 (a.u. 単位)および遠方の動径点 (a.u. 単位)の両端から予測子-修正子法で 数値的に解かれます。本キーワード「grid.xmin」により、原点付近の動径点を指定します。 (a.u.) = exp(grid.xmin)という関係があることに注意してください。 「grid.xmin」の適切な値の目安は、HからKrまでは−8.0、それより重い原子に対しては−10.0から-9.0程度です。 FEM計算の場合には、異なる動径グリッドが使用されています。詳細については、「有限要素法による計算」の章を参照してください。
動径Kohn-Sham方程式は、原点付近の動径点 (a.u. 単位)および遠方の動径点 (a.u. 単位)の両端から予測子-修正子法で 数値的に解かれます。本キーワード「grid.xmax」により、遠方の動径点を指定します。 「grid.xmin」と同様に、 (a.u.) = exp(grid.xmax)という関係があることに注意してください。 適切な「grid.xmax」の選択は原子によって異なります。 炭素原子や酸素原子など、局在電子のみを持つ原子の場合には、「grid.xmax」の値として2.5 (a.u.)程度が推奨されます。 Na、Ti、Feなど非局在化した電子を持つ原子では、「grid.xmax」の値として、3.0 (a.u.)以上が推奨されます。 さらに、原子が負電荷を帯びている場合は、大きな「grid.xmax」の値を使用して下さい。 有限要素法 (FEM)による計算の場合には、異なる動径グリッドが使用されます。 詳しくは「有限要素法による計算」の章を参照してください。
予測子-修正子法によって動径Kohn-Sham方程式を解くために、動径座標を離散化します。 分割数を本キーワード「grid.num」で指定します。実際のグリッドの分割は、ポテンシャルと波動関数が原点付近で 大きく変化するのを考慮し、rに対してではなく、dx=(grid.xmax.xmin)/(grid.num-1)としてx(=log(r))に対してなされます。 「grid.num」の適切な数値は3000から12000です。 有限要素法 (FEM)による計算の場合には、異なる動径グリッドが使用されます。 詳しくは「有限要素法による計算」の章を参照してください。
実際の計算は「grid.num」を用いて実行されますが、本キーワード「grid.num.output」により、 出力ファイル中のグリット数を変更することが可能です。 通常は500から1000程度を指定します。
本キーワード「scf.maxIter」により、SCF反復計算の最大数を指定します。 SCFのループは、収束条件が満たされない場合でも、「scf.maxIter」で指定された反復数で終了します。
本キーワードにより、入力電子密度を生成する混合法を指定します。 3つの混合法が利用できます。単純混合法の場合には「Simple」、GR-Pulay法 [12]の場合には「GR-Pulay」、 またPulay法 [13]には「Pulay」を指定して下さい。 ここで使用される単純混合法は、収束履歴を参照して収束を加速するように修正されています。 多くの場合に、単純混合法で収束解を得ることが可能です。
本キーワードにより、ADPACKのすべての混合法で使用される初期の混合比を指定します。 有効な範囲は、scf.Mixing.Weightです。
本キーワードにより、単純混合法の混合比の下限を指定します。
本キーワードにより、単純混合法の混合比の上限を指定します。
GR-Pulay法とPulay法では、過去の入力と出力電子密度を参照して、 次のSCFステップでの入力電子密度を推定します。 本キーワード「scf.Mixing.History」により、推定に使用される過去のSCFステップ数を指定します。 例えば、scf.Mixing.Historyを3とし、SCFステップが6番目だとします。 この場合、3番目から5番目のSCFステップの入力・出力電子密度が、最適な入力電子密度を評価するために考慮されます。
本キーワードにより、GR-Pulay法またはPulay法を適用するSCFステップを指定します。 GR-Pulay法またはPulay法を開始する前のSCFステップでは単純混合法が適用されます。
本キーワードにより、SCF計算の収束条件を指定します。 SCFの反復は、NormRDscf.criterionの条件が満たされた時、終了します。 ここでNormRDは入力電子密度 と出力電子密度 の差のノルムであり、 によって定義されます。 このキーワードに対しては、収束計算のために少なくとも1.0e-10程度を設定する必要があります。