OpenMX(Open source package for Material eXplorer)は密度汎関数理論(DFT)[1]、
ノルム保存型擬ポテンシャル[19,20,21,22,23]および擬原子基底関数[28]に基づき、
原子レベルから物質の第一原理シミュレーションを実行するためのソフトウェア・パッケージです。
OpenMXで用いられている計算手法、アルゴリズム、またそのプログラム上での実装は並列コンピュータ上でのMPI並列や
OpenMP/MPIハイブリッド並列による大規模第一原理電子状態計算を実現するために、入念に設計されています。
OpenMXにおいて実現されたDFTの効率的な実装により、炭素系材料、生体分子、磁性体およびナノスケール電気伝導体など幅広い物質の
幾何構造、電子構造、また磁気構造などを第一原理的に計算することが可能です。
数百コアを有する並列コンピュータを使用することにより、千個の原子で構成される系を通常の対角化手法を用いて扱うことができます。
さらに数千コアを有する並列コンピュータを使用すれば、一万個以上の原子から構成される系の第一原理による電子状態計算さえも、
OpenMXに実装されているO()法を用いて実行可能です。
多くの元素に対して最適化された擬ポテンシャルおよび基底関数がデータベースとして整備されており、またその精度はベンチマーク計算に
よって検証されています。そのためユーザは自分でこれらのデータを準備する必要がなく、速やかに各自のシミュレーションを開始することが
できます。
OpenMXには磁気特性、誘電特性、電気伝導特性などの物質特性を計算するための充実した機能が実装されており、
ナノスケール物質科学における有用かつ複雑な物質を、量子力学に基づいてより深く理解するための強力な理論ツールとして、幅広い活用が
期待されます。
これまでの応用計算の事例はOpenMXのWebサイト(http://www.openmx.-square.org/)に記載されていますので、参考にして下さい。
OpenMXの開発は、2000年に尾崎グループにより開始され、その後、本マニュアルの冒頭のリストに挙げられている数多くの開発者が
本オープンソースパッケージの開発に貢献してきました。
プログラム・パッケージとソースコードはGNU-GPL(一般公的使用許諾) [59]に準じて配布されており、
OpenMXのWebサイトからダウンロードすることができます。
OpenMX Ver. 3.7 の特徴と機能は以下のようになります。
コリニアおよびノンコリニアDFT法のそれぞれはスカラーおよび完全相対論的擬ポテンシャルに対応して実装されています。 またスピンおよび軌道磁気モーメントを制御するために制限ノンコリニアDFT法が実装されています。 これらの手法は複雑なノンコリニア磁気構造やスピン軌道相互作用を調べるのに役に立ちます。 通常の対角化による計算は、数千コアまでの並列化が実現できるELPAに基く並列固有値ソルバ [26]によって行われます。 この機能により、通常の対角化法を用いて千個の原子からなる系の計算が可能になります。 この高並列化対角化手法によってクラスタ、分子、スラブおよび固体に対する大規模計算が可能ですが、線形スケーリング法および 低次スケーリング法も固有値ソルバとして利用可能です。これらの低次スケーリング法に対しては計算精度と計算効率に対して 注意深い検討を行うことで、1万原子を越える系をも取り扱うことが可能です。 またOpenMX Ver. 3.7の重要な機能の一つとして、NEGF法に基づく電気伝導計算が、コリニアDFT法だけでなく 相対論的擬ポテンシャルおよび磁気モーメント制約法を用いたノンコリニアDFT法にも対応していることが挙げられます。
OpenMXの開発は継続して行われています。本オープンソースコードの発展に寄与して頂ける開発者の方のご参加を歓迎致します。