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分割統治法(DC法)

DC法は数値的に安定な方法で広範囲の物質に適用可能であり、また計算精度と計算効率を容易に制御できる方法です。 本手法は特に共有結合性の物質群に適しています。この節では、DC法を用いたO($N$)計算について説明します。 「work」ディレクトリ内の入力ファイル「DIA8_DC.dat」において、キーワード「EigenvalueSolver」を使 ってDCを指定して下さい。
     scf.EigenvalueSolver   DC
入力ファイル「DIA8_DC.dat」を用いてOpenMXを通常実行します。
    % ./openmx DIA8_DC.dat
  
この入力ファイルは8個の炭素原子を含むダイヤモンド格子のDC計算を行うためのものです。構造最適化は行いません。 計算時間はXeonプロセッサ (2.6 GHz)を使用した場合にはおよそ120秒です。 図15に、分割統治法によるダイヤモンド炭素の計算時間と計算メモリ量をスーパーセル内の炭素原子数の関数として示します。 計算時間は1回のSCFステップに対する対角化の所要時間、またメモリ使用量は1つのMPIプロセス当りを示します。 図から、計算時間とメモリ使用量は原子数にほぼ比例することが分かります。 DC法の計算精度と計算効率はキーワード「orderN.HoppingRanges」で制御されます。

系の原子数を$N$とすると、「orderN.HoppingRanges」で指定された半径の球で物理的に切り取られたクラスターが$N$個、 構築されます。それぞれのクラスターに対して、独立に固有値問題を解き、中心原子への射影状態密度を計算します。 その後、全ての原子からの射影状態密度を足し合せることで、全系の状態密度が計算されます。 「orderN.HoppingRanges」の適切な値は系によって異なりますが、分子系では 計算精度と計算効率の妥協点として次の値が推奨されます。

     orderN.HoppingRanges     6.0 - 7.0    # in Ang.

表2に、C$_{60}$分子と小ペプチド分子(バロルフィン(valorphin) [63])およびシトシンとグアニンから構成されるDNAについて、 通常の対角化法とDC法で計算した全エネルギーの比較を示します。 DC法で計算した全エネルギーの誤差は、どの系でも1原子当りミリハートリー程度であることが分かります。 また本計算で用いた計算条件では原子数が500以上になると DC法が通常の対角化法より高速となることが推定されますが、 計算時間における通常の対角化法とDC法の交差点は、系と並列計算で使用するコア数に依存しています。

切り取られたクラスターのサイズによって全エネルギーの収束性がだいたいどのように変わるかを見るため、通常の対角化と比較した全エネルギーの誤差を 図16に示します。ここでは切り取られたクラスターの原子数をパラメーターとして(a) 有限ギャップを持った固体、(b) 金属、(c) 分子の3つの場合を 取り上げました。これから分かることは、(a) 有限ギャップを持った固体と(c) 分子系の場合にはその誤差がほぼ指数関数的に減少し、 (b) 金属の場合には収束速度が相対的に遅いということです。


Figure 15: 分割統治法によるダイヤモンド炭素の計算時間とメモリ使用量。計算時間は1回のSCFステップに対する対角化の所要時間、 またメモリ使用量は1つのMPIプロセス当りを示す。計算にはMPI並列計算で16プロセスを使用。 基底関数にはC5.0-s1p1、DC法ではorderN.HoppingRanges=6.0 (Å)を使用。 使用計算機はXeonプロセッサ(2.6 GHz)。 計算に用いた入力ファイルは「work」ディレクトリ内の「DIA8_DC.dat」、「DIA64_DC.dat」、「DIA216_DC.dat」、「DIA512_DC.dat」。
\begin{figure}\begin{center}
\epsfig{file=DIA-ON.eps,width=11.2cm}
\end{center}
\end{figure}



Figure 16: DC法で計算された(a) 有限ギャップを持った固体、(b) 金属、 (c) 分子系の全エネルギーにおける誤差。 横軸は各切り取られたクラスタ内の原子数。水平方向の点線は「ミリハートリー(mili-Hartree)」の精度を示す。
\begin{figure}\begin{center}
\epsfig{file=DC_Error.eps,width=10cm}
\end{center}
\end{figure}


Table 2: 通常の対角化法とDC法によって計算されたC$_{60}$分子、小ペプチド分子(バロルフィン(valorphin) [63])、 シトシンとグアニンから構成されるDNAの全エネルギーと計算時間。計算には最小基底関数を使用。 DCの後のカッコ内の数値は、DC計算に使われた「orderN.HoppingRanges」を示す。 計算時間はOpteron PCクラスター(48 MPIプロセス, 2.4 GHz)用いて測定。 入力ファイルは、「work」ディレクトリ内の「C60_DC.dat」、「Valorphin_DC.dat」、「CG15c_DC.dat」。

  Total energy (Hartree) Computational time (s)
C$_{60}$    
(60 atoms, 240 orbitals)    
Conventional -343.89680 36
DC (7.0) -343.89555 37
Valorphin    
(125 atoms, 317 orbitals)    
Conventional -555.28953 81
DC (6.5) -555.29019 76
DNA    
(650 atoms, 1880 orbitals)    
Conventional -4090.95463 576
DC (6.3) -4090.95092 415


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t-ozaki 2013-12-23