有効遮蔽媒質法(ESM法)は、電荷を有するスラブモデルあるいは電場印加条件下にあるスラブモデルについての第一原理計算手法です[125,126,127,128]。 本手法では、スラブの表面並行方向には2次元の周期境界条件を保ちつつ、垂直方向には1次元の境界条件を与え (図 52(a))、 その1次元境界条件の下でのPoisson方程式をグリーン関数法によって解きます。 実際には次のような半無限媒質を境界条件として導入することによって、孤立スラブ系、荷電スラブ系、および一様電場下にあるスラブ系を扱います。
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ESM.switch on3 # off, on1=v|v|v, on2=m|v|m, on3=v|v|m, on4=on2+EF ESM.buffer.range 4.5 # default=10.0 (ang),ここで、on1、on2、on3、on4はESMの組み合わせ、すなわちそれぞれ「真空+真空」、「理想金属+理想金属」、「真空+理想金属」、「理想金属+電場中の理想金属」を表しています。 キーワード「ESM.buffer.range」はモデル内原子に対する排他的領域の幅(Å 単位)を指定しており、これは波動関数とESMの重なりを回避するために指定します。
ESM(I)およびESM(II)は半無限真空です。この条件は、計算する系の全電荷が中性である場合のみに適用されます。従って、キーワード「scf.system.charge」は必ずゼロに設定します。
ESM(I)およびESM(II)は半無限の理想金属です。電荷を持つ系を取り扱うことができます。キーワード「scf.system.charge」は有限な値に設定します。
ESM(I)およびESM(II)は、それぞれ、半有限の真空および理想金属です。電荷を持った系を取り扱うことができます。キーワード「scf.system.charge」は有限な値に設定します。
ここではon2と同じESMの組み合わせが適用されており、系に電場が印加されます。次のキーワードを使うことで計算する系に一様電場を印加することができます。
ESM.potential.diff 1.0 # default=0.0 (eV),ここで、下部の理想金属を基準に2枚の半無限理想金属媒質間の電位差(eV単位)を指定できます。電場はセル長aと電位差によって決まります。
ESM法を適用しながら固液界面系のMD計算を行うことができます。表面モデルスラブと液体領域は図 52 (b)のように配置します。与えられた領域内に分子を制限するため、次のキーワードを使って障壁ポテンシャルを導入します(図 52 (b)参照)。
ESM.wall.position 6.0 # default=10.0 (ang) ESM.wall.height 100.0 # default=100.0 (eV),ここで、「ESM.wall.position」はセル上端と障壁ポテンシャルの原点の間の距離、 また「ESM.wall.height」は (Å)でのポテンシャルの高さ(ポテンシャルエネルギーの値)です。 尚、MDを実行する間に表面モデルスラブの移動を防ぐために、そのスラブの最下層原子の座標を固定することをお勧めします。
図52(a)に示したように、マニュアルではESM法による扱いは軸に適応されます。 しかしながら、ESM法で扱われれる軸の選択は キーワード「ESM.direction」で以下のように変更できます。
ESM.direction x # x|y|z, default=x既定の方向は図52(a)のとおり軸です。