ここでは、スーパーセル法によって得られたバンド構造をどの様に参照単位胞のブリルアンゾーンに アンフォールディングするか説明します。 例として、ここでも不完全性のない2次元蜂の巣構造をもつSiCを考えます。 ただし、計算セルを以下の様に()のスーパーセルに拡張したものを考えます。
Atoms.Number 12 Atoms.SpeciesAndCoordinates.Unit FRAC # Ang|AU <Atoms.SpeciesAndCoordinates 1 C 0.16666666 0.33333333 0.50000000 2 2 2 C 0.66666666 0.33333333 0.50000000 2 2 3 C 0.16666666 0.83333333 0.50000000 2 2 4 C 0.66666666 0.83333333 0.50000000 2 2 5 Si 0.33333333 0.16666666 0.50000000 2 2 6 Si 0.83333333 0.16666666 0.50000000 2 2 7 Si 0.33333333 0.66666666 0.50000000 2 2 8 Si 0.83333333 0.66666666 0.50000000 2 2 9 Te 0.00000000 0.00000000 0.50000000 0 0 10 Te 0.50000000 0.00000000 0.50000000 0 0 11 Te 0.00000000 0.50000000 0.50000000 0 0 12 Te 0.50000000 0.50000000 0.50000000 0 0 Atoms.SpeciesAndCoordinates> Atoms.UnitVectors.Unit Ang # Ang|AU <Atoms.UnitVectors 6.138 0.0000000000 0.00 -3.069 5.3156639282 0.00 0.000 0.0000000000 10.00 Atoms.UnitVectors>
% mpirun -np 16 openmx SiC_C_NSP_P.dat > sic_c_nsp_p.std &入力ファイル「SiC_C_NSP_P.dat」は「work/unfolding_example」に収められています。 SCF計算が終わると、以下のアンフォールディング計算に必要なファイルが生成されます。
sic_c_nsp_p.unfold_totup sic_c_nsp_p.unfold_orbup sic_c_nsp_p.unfold_plotexample
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バンドのアンフォールディングを実施するためには、前節で示したキーワードの他に、 以下のキーワードを指定する必要があります。
<Unfolding.ReferenceVectors 3.0690 0.0000000000 0.000 -1.5345 2.6578319641 0.000 0.0000 0.0000000000 10.000 Unfolding.ReferenceVectors> <Unfolding.Map 1 1 2 1 3 1 4 1 5 2 6 2 7 2 8 2 9 3 10 3 11 3 12 3 Unfolding.Map>上記キーワードの指定に関して以下に説明します。
「Unfolding.ReferenceVectors」では、参考文献 [142] の式(24)に従って バンドアンフォールディングを行う際に参照する単位胞を定義します。 上記の例では、プリミティブセルを参照セルとしています。 入力形式は「Atoms.UnitVectors」と同じであり、1行目、2行目、3行目にa-、b-、c-軸を記載して下さい。 参照セルの単位は、スーパーセルで用いたものと同じであり、「Atoms.UnitVectors.Unit」で指定したものとなります。 「バンド構造の解析」の節では、「Unfolding.ReferenceVectors」を設定しませんでした。 このような場合には、「Atoms.UnitVectors」が自動的に「Unfolding.ReferenceVectors」として設定されます。
「Unfolding.Map」では、スーパーセル中の原子を参照セル内の原子にどの様にマッピングするかを指定します。 1列目には「Atoms.SpeciesAndCoordinates」にて指定した原子の通し番号を記述し、 2列目には各原子が所属するグループの通し番号を記述します。 上記の例では、原子1から4はグループ1に、原子5から8がグループ2に、原子9から12がグループ3に所属します。 「Unfolding.Map」にて与えられた情報に基づいて、参考文献[142]の式(17)に従って 各原子の再ラベリングを行います。 グループの識別番号は、正の整数であれば「1」からスタートする必要はなく、昇順にする必要もありません。
ここでは、更なる例として、2次元蜂の巣構造のSiC () スーパーセルにおいて、 Si欠陥を導入した場合を紹介します。 まず、以下の様にSCF計算を行います。
% mpirun -np 16 openmx SiC_C_SP_V.dat > sic_c_sp_v.std &入力ファイル「SiC_C_SP_V.dat」は「work/unfolding_example」ディレクトリに収められています。 ()スーパーセルからSi原子を取り除くと、入力ファイルは以下の様になります。
Atoms.Number 11 Atoms.SpeciesAndCoordinates.Unit FRAC # Ang|AU <Atoms.SpeciesAndCoordinates 1 C 0.16666666 0.33333333 0.50000000 2.5 1.5 2 C 0.66666666 0.33333333 0.50000000 2.5 1.5 3 C 0.16666666 0.83333333 0.50000000 2.5 1.5 4 C 0.66666666 0.83333333 0.50000000 2.5 1.5 5 Si 0.33333333 0.16666666 0.50000000 2.5 1.5 6 Si 0.83333333 0.16666666 0.50000000 2.5 1.5 7 Si 0.33333333 0.66666666 0.50000000 2.5 1.5 8 Te 0.00000000 0.00000000 0.50000000 0.0 0.0 9 Te 0.50000000 0.00000000 0.50000000 0.0 0.0 10 Te 0.00000000 0.50000000 0.50000000 0.0 0.0 11 Te 0.50000000 0.50000000 0.50000000 0.0 0.0 Atoms.SpeciesAndCoordinates>
スーパーセル内の原子を以下の様に参照セルにマッピングします。
<Unfolding.Map 1 1 2 1 3 1 4 1 5 2 6 2 7 2 8 3 9 3 10 3 11 3 Unfolding.Map>
SCF計算が終わると、以下のアンフォールディング法に関連するファイルが生成されます。
sic_c_sp_v.unfold_totup sic_c_sp_v.unfold_totdn sic_c_sp_v.unfold_orbup sic_c_sp_v.unfold_orbdn sic_c_sp_v.unfold_plotexampleプリミティブセルで得られたバンド構造と併せて「sic_c_sp_v.unfold_totup」と「sic_c_sp_v.unfold_totdn」を gnuplotによりプロットすることで、図 62(b) を得ることができます。 アンフォールディングされたスペクトルの重みを見ると、欠陥導入後も完全系における特徴を 維持していることが分かります。さらに、化学ポテンシャルが大きく高エネルギー側にシフトしていることや、 炭素原子のダングリングボンドによってスピン分極していることも見て取れます。 これらの解析のとおり、不完全性の導入によって本来のバンド構造が受ける影響を バンドアンフォールディング法を用いることで評価することができます。
欠陥ではなく不純物を導入した場合には、不純物の識別番号を指定するだけで計算が可能です。 SiC ()スーパーセルの13番目の原子として不純物を導入した場合には、再ラベリングの マッピングルールを以下の様に定義します。
<Unfolding.Map 1 1 2 1 3 1 4 1 5 2 6 2 7 2 8 2 9 3 10 3 11 3 12 3 13 4 Unfolding.Map>複数の不純物が存在する場合にも、上記と同様にマッピングルールを定義することができます。