軌道最適化法 [41]を用いて基底の動径関数を変分的に最適化することができます。 メタン分子(入力ファイル「Methane_OO.dat」)を例として、軌道最適化の手順を説明します。 軌道最適化法では、最適化動径関数は、プリミティブ動径関数の線形結合で表されます。線形結合の係数は縮約係数 と呼ばれ、この縮約係数が変分原理に基づき最適化されます。 軌道最適化法でのプリミティブ動径関数と最適化動径関数の数は、次の様にで指定します。
<Definition.of.Atomic.Species H H5.0-s4>1 H_CA19 C C5.0-s4>1p4>1 C_CA19 Definition.of.Atomic.Species>水素原子(H)の軌道に対しては、4つのプリミティブ動径関数の線形結合から1つの最適化動径関数が得られます。 同様に、炭素原子(C)の場合、4つのプリミティブ動径関数の線形結合から1つの()軌道の最適化動径関数が得られます。 さらに、以下のキーワードにより軌道最適化法が制御されます。
orbitalOpt.Method species # Off|Species|Atoms orbitalOpt.Opt.Method EF # DIIS|EF orbitalOpt.SD.step 0.001 # default=0.001 orbitalOpt.HistoryPulay 30 # default=15 orbitalOpt.StartPulay 10 # default=1 orbitalOpt.scf.maxIter 60 # default=40 orbitalOpt.Opt.maxIter 140 # default=100 orbitalOpt.per.MDIter 20 # default=1000000 orbitalOpt.criterion 1.0e-4 # default=1.0e-4 CntOrb.fileout on # on|off, default=off Num.CntOrb.Atoms 2 # default=1 <Atoms.Cont.Orbitals 1 2 Atoms.Cont.Orbitals>入力ファイル「Methane_OO.dat」を用いてOpenMXを通常実行します。
% ./openmx Methane_OO.datこの計算が正常に終了すると、ファイル「met_oo.out」中に軌道最適化の履歴が記録されています。
*********************************************************** *********************************************************** History of orbital optimization MD= 1 ********* Gradient Norm ((Hartree/borh)^2) ******** Required criterion= 0.000100000000 *********************************************************** iter= 1 Gradient Norm= 0.057098961101 Uele= -3.217161102876 iter= 2 Gradient Norm= 0.044668461503 Uele= -3.220120116009 iter= 3 Gradient Norm= 0.034308306321 Uele= -3.223123238394 iter= 4 Gradient Norm= 0.025847573248 Uele= -3.226177980300 iter= 5 Gradient Norm= 0.019106400842 Uele= -3.229294858054 iter= 6 Gradient Norm= 0.013893824906 Uele= -3.232489198284 iter= 7 Gradient Norm= 0.010499500005 Uele= -3.235304178159 iter= 8 Gradient Norm= 0.008362635043 Uele= -3.237652870812 iter= 9 Gradient Norm= 0.006959703539 Uele= -3.239618540761 iter= 10 Gradient Norm= 0.005994816379 Uele= -3.241268535418 iter= 11 Gradient Norm= 0.005298095979 Uele= -3.242657118263 iter= 12 Gradient Norm= 0.003059655878 Uele= -3.250892948269 iter= 13 Gradient Norm= 0.001390201488 Uele= -3.255123241210 iter= 14 Gradient Norm= 0.000780925380 Uele= -3.255179362845 iter= 15 Gradient Norm= 0.000726631072 Uele= -3.255263012792 iter= 16 Gradient Norm= 0.000390930576 Uele= -3.250873416989 iter= 17 Gradient Norm= 0.000280785975 Uele= -3.250333677139 iter= 18 Gradient Norm= 0.000200668585 Uele= -3.252345643243 iter= 19 Gradient Norm= 0.000240367596 Uele= -3.254238199726 iter= 20 Gradient Norm= 0.000081974594 Uele= -3.258146794679多くの場合、20〜50回の反復計算で収束に達します。 プリミティブ基底関数および最適化基底関数で計算されたメタン分子の全エネルギーを以下に示します。
Primitive basis orbitals Utot = -7.992569945749 (Hartree) Optimized orbitals by the orbital optimization Utot = -8.133746986502 (Hartree)
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軌道最適化によって全エネルギーは低下しており、変分的に基底関数が最適化されていることが分かります。 図 16 に、プリミティブ基底および最適化基底を使って得られた分子およびバルクの 全エネルギーの収束の様子を示します。 ここで扱った全ての系に対して、最適化基底の収束特性が優れていることが分かります。 上記の例でのメタン分子の場合、最適化された基底関数は「C_1.pao」と「H_2.pao」の2つのファイルに出力されます。 これらのファイル「C_1.pao」と「H_2.pao」は擬原子基底関数の入力データとして、 OpenMXの計算に対してそのまま使用できます。 最適化された基底関数はファイルに出力されますので、計算しようとする系の基底関数を予め最適化しておくと便利です。 この際、軌道最適化法を適用する系としては、化学的に類似した小さな系を選択することを推奨します。
キーワード「orbitalOpt.Method」には、次の2つのオプションが用意されています。 (1) それぞれの原子上の基底関数が完全に最適化される「atoms」、 (2) それぞれの原子種の基底関数が最適化された「species」。
各原子単位で基底関数が最適化されます。動径波動関数は磁気量子数には依存しませんので、 系の回転に対する全エネルギーの不変性が保証されます。
「Definition.of.Atomic.Species」で定義した同一名の原子種の基底関数は同一の軌道に最適化されます。 動径波動関数は磁気量子数には依存しませんので、系の回転に対する全エネルギーの不変性が保証されます。 ほぼ同様の化学的環境を持つ原子に対して同一の最適化基底を生成したい場合に、有用な方法です。
「入力ファイル」の章でも同様な情報が記載されていますが、ユーザーの利便性のため、
関連するキーワードの詳細を以下に列挙します。
orbitalOpt.scf.maxIter
軌道最適化におけるSCF反復の最大回数を「orbitalOpt.scf.maxIter」キーワードで指定します。
orbitalOpt.Opt.maxIter
軌道最適化の反復の最大回数を「orbitalOpt.Opt.maxIter」キーワードで指定します。軌道最適化の反復は、収束条件が達成しなかった場合でも、同キーワードで設定した回数で終了します。
orbitalOpt.Opt.Method
軌道最適化の収束方法として、2つの手法がサポートされています。
「EF」は固有ベクトル追跡法、「DIIS」は反復部分空間における直接反転法です。それぞれのアルゴリズムは構造最適化のそれと同じです。「orbitalOpt.Opt.Method」キーワードでは「EF」あるいは「DIIS」を指定して下さい。
orbitalOpt.StartPulay
「orbitalOpt.StartPulay」キーワードで指定した最適化ステップから、準ニュートン法である「EF」または「DIIS」法を開始します。
orbitalOpt.HistoryPulay
準ニュートン法である「EF」および「DIIS」法において、次ステップでの縮約係数を推定するために参照する過去の
ステップ数を「orbitalOpt.HistoryPulay」キーワードで指定します。
orbitalOpt.SD.step
準ニュートン法である「EF」および「DIIS」法を開始するまでの最適化ステップは最急降下法が適用されます。
最急降下法で使用する前因子は「orbitalOpt.SD.step」キーワードで指定します。
多くのケースにおいて、「orbitalOpt.SD.step」の適切な値は0.001程度となります。
orbitalOpt.criterion
軌道最適化の収束条件((Hartree/bohr))を「orbitalOpt.criterion」キーワードで指定します。
「微分のノルムorbitalOpt.criterion」という条件が満たされた時に反復ループが終了します。
CntOrb.fileout
最適化動径関数をファイルに出力したい場合は、「CntOrb.fileout」キーワードを「ON」にする必要があります。
Num.CntOrb.Atoms
最適化動径関数をファイルに出力する際の原子数を「Num.CntOrb.Atoms」キーワードで指定します。
Atoms.Cont.Orbitals
「Atoms.SpeciesAndCoordinates」キーワードの第1列で定義した原子の通し番号を用いて、
最適化基底を出力する原子を「Atoms.Cont.Orbitals」キーワードで次のように指定します。
<Atoms.Cont.Orbitals 1 2 Atoms.Cont.Orbitals>記述は「Atoms.Cont.Orbitals」で始め、「Atoms.Cont.Orbitals」で終わります。 行の数は、