ノンコリニアDFT法において任意のスピン方位を持つ電子構造を計算するために制約条件付きDFT法が利用可能です。 制約条件付きDFT法では、スピン方位と初期スピン方位の差がゼロで無い限り系のエネルギーにペナルティーを与える汎関数が付加されます [13]。 ノンコリニアスピン方位に対する制約条件付きDFT法は次のキーワードで利用できます。
scf.Constraint.NC.Spin on # on|on2|off, default=off scf.Constraint.NC.Spin.v 0.5 # default=0.0(eV)キーワード「scf.Constraint.NC.Spin」を「on」もしくは「on2」とした場合にペナルティ関数が導入されます。 「on」の場合、スピンの向きは初期の配向に拘束されますが、スピンの大きさには制約は課されません。 全エネルギーの安定化するようにスピンの大きさは自動的に最適化されます。 一方、「on2」の場合、スピンの向きと大きさの両方に制約条件が課され、「Atoms.SpeciesAndCoordinates」で指定した初期値から 逸脱するとエネルギーにペナルティが加算されます。 キーワード「scf.Constraint.NC.Spin.v」は導入した制約の強さを制御する際に使用します。 各原子に対して制約を付与する場合には以下の様に指定します。
<Atoms.SpeciesAndCoordinates 1 Cr 0.00000 0.00000 0.00000 7.0 5.0 -20.0 0.0 0.0 0.0 1 off 2 Cr 0.00000 2.00000 0.00000 7.0 5.0 20.0 0.0 0.0 0.0 1 off Atoms.SpeciesAndCoordinates>12列目の「1」は制約が課されることを意味し、「0」は制約が課さないことを意味します。 また本制約条件付きDFTは「DFT+」の章で説明したDFT+ 計算と互換しており、同時に両手法を用いることが可能です。 本手法の適用例として、クロム二量体の二つの局所スピンの間の相対角度に対する全エネルギーと磁気モーメントの依存性を 図35に示します。ディレクトリ「work」の入力ファイル「Cr2_CNC.dat」を用いてこの計算を再現できます。
制約付きDFT法を用いてスピン角度の関数として滑らかなエネルギー曲線を計算するための処方箋をここで説明します。 多くの場合、局在磁気モーメントは電子のように局在した軌道または軌道への部分占有状態から生じます。 局在軌道への電子の部分占有状態は占有数空間に多くの自由度を持ち、そのために多数の局所解を持っています。 このような局所解を避けるため、まず容易軸に沿ったスピン方位から計算を開始するべきです。 最初の計算が終了すると、リスタートファイルが生成されます。 次の計算ではスピン方位を最初の計算と比較して、僅かに、例えば30度ほど回転させます。 この際に最初の計算で生成されたリスタートファイルを読み込みます。 同じ手順を計算したい全てのスピン回転角度の場合に適用します。 各計算では前回のステップで生成されたリスタートファイルを利用して下さい。 この段階的なアプローチは局所解の回避に有効な方法です。