小さな分子系に対しては、静電ポテンシャル(ESP)フィッティング法 [109,110,111]が有効電荷を決定するのに良く用いられています。
多くの場合に、得られた結果は化学的な直観に整合しています。
ただし、ESPフィッティング法では表面部分から離れた原子に対して、十分なサンプリング点が存在しないために、
巨大分子やバルク系には適用できません。
ESPフィッティング法では、最小二乗法を用いて有効点電荷を決定します。
DFT計算によって求めた静電ポテンシャルを可能な限り再現するように、最小二乗法を用いて有効点電荷を決定します。
ESPフィッティング電荷は次の二段階で計算します。
(1) SCF計算
通常のSCF計算後、次の2つのファイルが出力されます。
System.Name.out System.Name.vhart.cube二つのファイルを作成するための追加のキーワードは必要ありません。 これらのファイルは通常のSCF計算から得られる出力ファイルですが、 キーワード「level.of.fileout」は1または2に設定する必要があります。
% make espコンパイルが正常に完了すると、ディレクトリ「work」に実行形式ファイル「esp」が作成されます。 ESPフィッティング電荷はプログラム「esp」を用いて二つのファイル「System.Name.out」、「System.Name.vhart.cube」から計算します。 例えば、「テスト計算」の章で示したメタン分子の場合、ESPフィッティング電荷は次の様に計算されます。
% ./esp met -c 0 -s 1.4 2.0拡張子なしのファイル名を指定するだけで十分ですが、二つのファイル「met.out」と「met.vhart.cube」は「work」ディレクトリに 保存しておかなければなりません。 オプションの「-c」と「-s」は制限条件と倍率(scale factor)を指定するパラメータです。 ソースコード「eps.c」のヘッダーの部分に次の説明が記載されています。
-c constraint parameter '-c 0' means charge conservation '-c 1' means charge and dipole moment conservation -s scale factors for vdw radius '-s 1.4 2.0' means that 1.4 and 2.0 are 1st and 2nd scale factorsESPフィッティング法は、電荷保存、並びに電荷と双極子モーメント保存の二つの制約条件下でフィッティングを行います。 後者はDFT計算によって求めた電荷と双極子モーメントを再現できますが、双極子モーメントの保存条件を導入すると、 特に大きな分子に対して、物理的に容認できない点電荷が得られる可能性が生じます。 従って前者の制約条件が推奨されます。 サンプリング点としては二つのシェル構造で挟まれた領域内の実空間格子点が選択されます。 シェル構造は各原子に割り当てられた球の足し合せから定義されます。球の半径は 「-s」以降に与えた1番目および2番目の倍率(scale factor)ファン・デル・ワールス半径で 与えられます [112]。
計算結果は次のように標準出力(ユーザーのディスプレイ)に出力されます。
% ./esp met -c 0 -s 1.4 2.0 ****************************************************************** ****************************************************************** esp: effective charges by a ESP fitting method Copyright (C), 2004, Taisuke Ozaki This is free software, and you are welcome to redistribute it under the constitution of the GNU-GPL. ****************************************************************** ****************************************************************** Constraint: charge Scale factors for vdw radius 1.40000 2.00000 Number of grids in a van der Waals shell = 28464 Volume per grid = 0.0235870615 (Bohr^3) Success Atom= 1 Fitting Effective Charge= -0.93558216739 Atom= 2 Fitting Effective Charge= 0.23389552572 Atom= 3 Fitting Effective Charge= 0.23389569182 Atom= 4 Fitting Effective Charge= 0.23389535126 Atom= 5 Fitting Effective Charge= 0.23389559858 Magnitude of dipole moment 0.0000015089 (Debye) Component x y z 0.0000003114 -0.0000002455 -0.0000014558 RMS between the given ESP and fitting charges (Hartree/Bohr^3)= 0.096515449505